No.03

Crew

金が入社して1年が経とうしているときのことだった。これは彼が一段と高い壁を越えたプロジェクトの話である。

もう一人の主人公・柴田は入社して2か月。これは彼のマインドを変えたプロジェクトの話である。


「金さん!いま提案している企画が通ったら金さんにお願いすると思います!」

リモートワークが多かったこの頃、金は2日ぶりのオフィスで営業の黒須に声をかけられた。

「お〜どんな企画?」

「この採用系ツールのLP制作と広告運用で、運用の過程と数値を記事化します!」

「記事化?」

「はい!現状クライアントさんが自社で運用されているので、うちで何をやってどれだけ伸びたかをこのメディアに数字含め公開するのを企画として提案していて」

金は状況を飲み込むのが早い。黒須の表情からも企画が何を意味しているかを受け取った。LPの制作過程、広告運用の過程、それらがもたらす数値すべてが公になるのだ。次の瞬間、首の後ろに重みがのしかかっているのを感じた。どんな案件でも結果を出すつもりでいるが、万が一の想像がよぎる。成果が出せなければそもそも企画が成立せず、クライアントへの説明がつかない。さらにその様子を同業者から未来のクライアントまで、かなりの関係者が見ている。仕事のレベルがさらけ出されるのだ。失敗すれば会社の今後が揺らぐだろう。クレジットが載るため、社内評価はもちろん今後の自分のキャリアすべてがかかっている。どう考えてもリスクのほうが大きい。


「なんで僕なの?」

重みに引き下げられていた顔をほんの少し持ち上げると、こぼれるように言葉が落ちた。



柴田はこの話を、代表の相原から聞いていた。

「で、企画が通ったら制作は金さん、広告運用は柴田さんにお願いするつもりです!」

金が重たく受け止めていたのに対し、柴田はふわりと受け取っていた。広告運用をメインでやりたいために転職してきた彼は、入社2か月で希望の機会が得られる可能性にほんの少し胸が高鳴る。担当するとしたら「広告運用者は2人」とも耳にし、どんな連携になるだろう、どう動こうか、と想像する。冷静に自身の実務イメージを膨らませていた柴田は、相原がいつもより熱を込めて企画概要を話しているのを感じつつ、“記事化”のもつ意味があまりピンときていなかった。

「あ〜そうなんですね。わかりました」

事態が飲み込めないまま口を開くと、煙のように言葉が宙を舞った。


翌週、金と柴田は同じ会議室にいた。二人の他に、相原、黒須、林、デザイナーの榊、広告運用者の谷口……と、これだけのメンバーがオフィスに集まるのは久しぶりだ。

改めて、相原から企画の説明がある。

「というわけでこのメンバーで!皆さんお願いします!」

提案が通り、メンバーが決定した。
金の頭の中は、浮かぶリスクとプレッシャーを吸い上げた灰色の分厚い雲で覆われていた。大雨と雷の音が間もなく聞こえてきそうだ。「本当にやるのか?本当に自分なのか?嫌だなぁ……」そう思いながら、できるだけ腹を括った声を出した。

「お願いします」

柴田の頭の中は、実感のなさと少しの希望が入り混じった薄い雲に覆われていた。光は感じるが太陽も青空も見えない。上司の林は相談役に止まり、共に担当するメンバーは後輩の谷口に決定した。自分が初めてメインで広告運用を行うのだ。正式に企画説明を受け、“記事化”が社運を握った前代未聞の事態であることも理解した。「なんかすごいことになっちゃったな……。でもやりたかった広告の仕事がきたわけだしなぁ」そう思いながら、できるだけ落ち着いた声を出した。

「お願いします」

「お願いします」

「お願いします」

後に続くメンバーも、曇った声を出した。

相原は黒須に続ける。

「初回の打ち合わせだけ黒須が調整して、あとは金さんにバトンタッチして!俺も行くからこのメンバー全員でよろしく!」

「はい!」

次の瞬間には、金はやるべきことやスケジュールを描きはじめていた。彼が担当するのは先方とのやりとり、進行管理、ディレクション、コピーライティング……とLP制作における大半を担う。今回の商材はtoB向けのツール。社運がかかっている上に、知見のない商材のためリサーチに時間がかかりそうだ。

「黒須さん、先方との打ち合わせをできるだけ早い日程で調整お願いできますか?」

「わかりました!直近で組みますね!」

金の頭の中には、灰色の分厚い雲を押し退けるようにプロとしての風が吹きはじめていた。やると決まれば全力でやる。これまでも難しい案件を数々担当してきた金は、スタートと同時に不安やプレッシャーから意識を切り替え、マインドを整える技術が高い。


迎えた先方との打ち合わせ。いつにない大所帯でオフィスに着いた。通常であればプランナーである金だけが赴くが、今回は広告運用チームもデザイナーも同席する。そして先頭には相原が歩いていた。

「吉川さん、お願いします!」

「おお、皆さんでご足労いただいてありがとうございます!お願いします!」

出迎えたのは広告運用のスペシャリストであり代表の吉川だ。彼が現れた瞬間、聞こえていたエアコンの音が遠のき、緊張感がより増したのをメンバーたちは感じあっていた。

この日は今回扱うツールの説明を受ける。吉川が画面を共有しながら話し、相原が質問し、また吉川が話す。とにかくできることが多いツールで、代表二人のラリーがテンポよく続いていく。その様子は軽快に見えるが、メンバーたちの肩は重くなるばかりだった。

金は普段なら、打ち合わせの場で多くの質問をして情報を集め、先方との関係を構築していく。だが、抜群に空気を読み最適な運びを瞬時に判断する彼は、この日は相原を立てることに徹していた。内側で募るプレッシャーをコントロールしながら、目の前で展開されていく情報のすべてをインストールしていく。説明が進むにつれて、ツールの機能の多さにこれをどう伝えればいいのだろうかという難しさも見えてきた。

柴田は話を聞きながら、吉川が黎明期から広告運用をやってきており、言葉の端々からもこの場の誰より知見があるように感じていた。この人を前に自分が運用し、結果を出さなければならない。実感がわかないままここに来ていたが、胸の奥がひんやりして背筋が伸びる。だが柴田は、プレッシャーの大きい仕事でも必要以上に力まず、しなやかに臨めるメンタルの持ち主でもあった。それに、金たちがLPを制作する時間があるため、広告運用が始まるまでには2か月ある。緊張感を高めつつも、吉川の話に好奇心を傾け純粋に楽しんでもいた。

「では、よろしくお願いします」

吉川と相原のラリーが続き、打ち合わせが終わる。会議室からエレベーターへ向かう間、金はここからいよいよ自分にかかっているのだと緊張の糸をより強く引いていた。一方で柴田は、ハードルの高さを感じながらもオフィスが綺麗であることに目を向けながら歩けている。相原たち5人が詰め合いながらエレベーターに乗り込むと、吉川は「では」と軽やかに頭を下げた。扉が閉まると、重たい箱はゆっくりと下降を始める。

扉が開くと、メンバーたちは冷たい空気に放たれていった。
ここからまずは、金の物語が進んでいく。

相原は外を歩き出すなりいくつかのアイデアを話し出したが、ツールの解像度を高めきれずにいる金はどれもピンとこなかった。まずは商材を徹底的に理解しなければならない。これも想定の範囲内で、リサーチの時間が長くなることを見越して通常より余裕をもったスケジュールを引いていた。1案件の利益は落ちるが、影響力を考えると必要な選択だ。情報収集とそこから生まれるコピーライティングがLPの成果を大きく左右する。ひたすら調べ、ひたすら書く日々が始まった。

本音は怖いし嫌だ。だがそれをコントロールしながらモチベーションを上げ、ベストを尽くすのも彼の技術。全力でやる。あとはなるようになる。プロジェクトの動き出しとともに精神的な一山を越え、集中力を上げていた。


ツールを使っている企業のいくつかを吉川から紹介してもらい、ヒアリングのアポイントをとっていく。その傍らで、社内でも部署を越えて知見がありそうなメンバーには片っ端から話を聞いていった。“凄さ”は伝わってくるものの、なかなか落とし込みきれない。知見のなかった金がその良さを理解するのは、どこか遠い国の言語でその地に伝わる数々の陶器の価値を習得するようなものだった。

何よりもリサーチとヒアリングに時間をかけていく。それでも絞り出すコピーはどれも鋭さが足りなかった。いくつ書いても自分の中で正解が見えてこない。とにかく出して見てもらおうと、書いては相原に送ったが、戻ってくるばかりだった。

さらにこのとき金は、他にメインで抱えている案件が6社、長期化や苦戦しているメンバーのサポート案件が15件あった。20を超えるプロジェクトが同時に進行しているのだ。外の者から見れば、このツールの案件は明らかに会社への影響が大きい。だがクライアントはどの企業も自分たちを信用して任せてくれている。彼は決して優劣をつけず、一つも手を抜かなかった。期限も質も落とさない意識のもと、作業はしばし深夜に及んだ。

金は成果を出そうと決めたら、難しいことも軽々乗り越えるスタンスだった。これは音楽と共に人生を歩んできた彼が、ロックから学び実践してきたことである。自分に困難が重なっていても、外の人たちにとっては関係ない。一人の人間として早く解放されたい気持ちが湧き上がることもあるが、そのたびにプロとしてのマインドがぐっと目の前に意識を戻す。

こうして自分を保てていたのは、一人で背負わずに仲間の力を借りることも大切にしていたからでもあった。ベストを尽くすには、優秀で熱量の高いメンバーの力を借りていく他ない。毎日のように社内で話をして、書いては出し、戻ってきてはまた聞いて書く。仲間の力を一生懸命に借り、仲間が全力で応え、その熱量に応えようと書き続ける。この好循環があることで金はタフで居続けられるのだ。気づけば出したコピーは100案にのぼっていた。

時間は刻々と過ぎていき、二晩寝ない夜が続いていた午前2時。帰宅した後も「あぁ今日も寝れないか」と、さすがに焦りと疲労が入り混じる頭でこの日のヒアリングやリサーチをぐるぐると掻き回しているときだった。

「戦略が浮かぶよね」

社内で話していた際の一言が蘇ると、ピタリと一時停止した。たくさんあるがゆえに絞り切れなかったツールの魅力を繋ぐ、一本の糸が見えたのだ。

「これだ」

金はコピーを書き上げるとチャットに送信する。大きく伸びをしながら長い息を吐くとベッドに雪崩れ込んだ。2日ぶりに天井を見つめると、重たい瞼がストンと落ちた。

翌朝、チャットを開くと一番に相原から返信が来ていた。

相原「これいい!これでいこう!」

そこにチームメンバーからの言葉が続く。

柴田「うお〜!しっくりきます!」

榊「さすが金さん!」

林「めっちゃ良き!」

こうしてこの一案とLP全体の構成案を先方に提案すると、

「いいですね!ツールの魅力を凝縮した言葉で感動しました!流れも最高です!引き続きよろしくお願いします!」

と吉川から返信がきた。

安堵の波が金の頭の先からつま先にざっと流れるも、次の瞬間には意識がデザインへと切り替わる。2時間後、デザイナーの榊とミーティングが始まった。金が構成案と共に描いていたイメージを出すと、榊が問いや参考デザインを重ねる。それまでなかった可能性が生まれ、深掘りしながら新たなアイデアを出していく。
「ツールの革新的なイメージを伝える意味だと、この感じは近いね。でもちょっとトーンが固いというか、真面目すぎるというか。まだしっくりこない感じがするなぁ」

「採用担当の方々の工数を減らして助けになることが伝わるような、あたたかみのあるニュアンスはどうでしょう? 機能や新しさを打ち出す要素を残しつつ、こういう曲線を使ったイメージを入れるとか」

「おお!いいね!寄り添うプロダクトなのが一緒に伝わるとよさそう!新しさがありつつ、身近に感じられるトーンがいいですね」

「あ〜!寄り添う、身近な感じは、toCのサイトで使われるような……例えばこんな方向性もありそうでしょうか?」

こうしてディスカッションを重ねているうちに3時間が経過し、ようやく二人がしっくりくる結論にたどり着いた。ピックアップした参考デザイン数は通常の3倍にのぼっていた。

その後、榊より作成したデザインが送られてくる。

「おお!最高ですね!」

丁寧なすり合わせに榊の腕が加わり、最初から完成形のデザイン案があがってきたのだ。細かい部分だけ調整し、相原へ共有する。金は「やれるだけやれば、あとはもう柴田たち広告運用チームがやってくれる」という気持ちでやりきっていた。相原からOKが出ると、先方に提出した。

「最高です!コピーもデザインにハマるとより良いですね。ありがとうございます。LP制作の依頼先を探している知人の企業があるのですが、ぜひ貴社をご紹介させていただけませんか?」

吉川からの返信に、鼓動が早くなる。半分は嬉しさで、半分はいよいよ広告運用が始まるという緊張だった。

金からのバトンを受け、ここからは柴田の物語が進んでいく。

LPの制作中の2か月間。柴田は金から相談を受けていたし、日々プロジェクトメンバーのチャットを見ていたため、案件が常に頭にあった。LP制作メンバーが真っすぐに向きあっていたのもあり、この頃には「結果を記事化する」ことが意識の遠くに置かれていた。代わりに頭の中を占めていたのは、とにかくクライアントの成果を出すこと。そう考えながら、心は広告運用を念願叶って本格的に担当できる喜びと、上司以上に結果を出せるのかという自信のなさが溶け合っていた。だが、そんな感情が渦巻いているとは表には出さず、冷静な眼差しで目の前の一つ一つに向き合うのが柴田だった。

広告を配信し始める前に、柴田は共に運用を担当する谷口と綿密に戦略を練った。先方が自社で運用していた際のデータを分析し、今回の条件に合わせて整理を行う。どの媒体にいつどれだけ予算をかけるのか、どこにバナーを出すのか。柴田は頭の中で大量のデータを高速回転させながら、穏やかな口調で鋭い戦略を打ち出していく。谷口はそのスピードに乗りながら明るい口調で別の視点を重ねていく。「ここはこうだよね」「こんな可能性がある」「こっちにした方がいい」と組み立てては議論して、またデータを確認し、ときにはアドバイザーの林とも話し、また組み立てる。隅々まで知恵を絞る日々が1週間続いた。

そして迎えた広告配信開始日。万全の状態にセットし終えた21時20分。暗いオフィスでスポットライトのように照明が灯る下に、二人の影が落ちていた。

「じゃあこれで回します」

「うん!いこう」

柴田は自分の浅い呼吸に緊張を感じながらクリックした。その10分後。

「ちょっと待って、ちょっと待って」

初動で通常の6倍ほど悪い数字が出ている。柴田と林の手にはじわりと汗が滲んでいた。

「やばいね。なんだ?」

「なんでしょう……」

「一旦、落ち着こう」

「そうですね。冷静に」

二人はお互いの言葉で心を沈めながら、改めて確認していく。

「なんでこうなったんだ」

「ここがこうなっているからか」

「いや〜こっちの可能性もありますね」

30分も経たないうちに、1週間かけて作り上げてきたものを白紙にし、一から組み立てはじめていた。静かなオフィスに二人の青い炎が灯る。2時間ほど作業が続きようやく出口が見えると、翌日から配信できるようセットして帰路についた。

次の日、改めて広告を配信し始める。するとコンバージョンが1件ついた。

柴田「CV1件つきました!」

林「きた!昨日はお疲れ!」

谷口「ありがとうございます!このまま伸びますように!」

金「よかった!」

相原「いいね!!」

チャットにメンバーからのコメントが続々と届く。

だがその後、最初の1件が幻かのようにCVがつかず、砂漠に放り出されたような1週間が続いた。CPAは目標値より大幅に高騰している。どう直そうか。柴田は谷口と共にデータとLPを睨む。広告運用はタイミングもあるので初動が悪いことはある。二人は悲観しすぎず、あらゆる角度から議論していた。

「やっぱりform完了率が低いのが気になるね〜」

「ここのボタンとコピーは改善の可能性がありそうですね」

「うん、あとバナーとLPの親和性をより高めたほうが良さそうですね」

ある程度ポイントが絞り込めてきたところで、金に緊急で打ち合わせを依頼した。LPやその先のformにテコ入れしていくのだ。

金「柴田さん、本当に申し訳ないんですが……」

しかし金はこの頃、トラブルが起きている案件の立て直しに呼ばれており、手が離せない状況だった。

柴田「それは大変ですね、、落ち着いたタイミングでお願いします!」

金はよほどのことがない限り調整してくれる。おそらく寝る間を惜しんで作業しているだろうと、柴田は谷口と共にできることをとにかく進めた。

「配信媒体、もうちょっと細かく見て計算しておこう」

翌日の19時。時間ができた金とデザイナーの榊を交えて打ち合わせが行われた。

「なるほど。ボタンの文言を変更しますか」

「ここにイメージ画像を入れるのもありかもしれないですね」

「たしかにformへの遷移率が上がりそうですね」

「いいね、それもやってみよう。formの見出しも変えようか」

全員が疲れのピークに達していたが、同じ心意気で高い熱量をもっていた。不思議なことに、あれだけ不安をおぼえていた「結果の記事公開」は誰の意識からも遠ざかり、皆クライアントを勝たせる一心だった。メンバーが集うほどにいい改善策が上がっていく。こうして1時間で11箇所の変更が決まった。

その後、金と榊は慣れたチームワークでLPとformの変更箇所の差し替えを素早く作成していく。相原も「いいね!」と弾むように声をかけた。それを受け取った柴田と谷口は改めて広告配信を開始する。

変更直後にさっそくCVが1件。身体の力が緩んだが気は抜けない。だが、1時間おきに1件、また1件と数字を重ねていく。19時を回った頃、数字を確認した柴田はこの案件を進めて初めて口角が上がった。

柴田「CV+6件でした!みなさん本当にありがとうございました!引き続きよろしくお願いします!」

金「お〜!よかったです!引き続きお願いします!」

林「ナイス!!」

しかし流れは長くは続かなかった。CVは日に日に下がっていく。この間も柴田は谷口と毎日データを見て話し、金と2日に1回は打ち合わせをしていた。だが翌週にはまたCVが下がり、CPAは目標値から高騰している。柴田と谷口は再びデータと睨み合っていた。

「やっぱり土日はCVしないね」

「そうですね、どの媒体も」

「配信狭めていこう。CTRが他と比較しても下がってるよな〜。やっぱバナーの改善かな……。でもLPのトップも気になる……」

「これがツールっていうのが伝わっていない可能性もありますよね」

「あ〜たしかに。ベネフィットは伝わるけど、そもそも何かが伝わりにくいのか……」

柴田はバナーを改善してCTRを上げていくのが得策だと考えながらも、あらゆることが問題に見えてきていた。星空を頼りに舵を切ろうとするも、どの星も明るく見えて進めない。悩んだ末に上司の林に声をかけ、データやバナー、LPを画面に出しながら仮説を話した。

「うん、僕もこことここだと思う」

その言葉で、再び金と榊に改修を相談した。するとこの改善ですぐに数値が良くなり目標としていたCPAに到達したのだ。

金「ついに!!よかったです!」

榊「このまま伸びろ〜〜!」

相原「ナイス!」

チャットの文字からメンバーの明るい表情が伺える。その画面を見つめながら、柴田は沈んだ表情をしていた。

実行に移す前に上司の林を介入させてしまったことが、矢となって胸を刺していたのだ。林の考えと柴田の仮説は重なっており、間違っていなかった。だが、責任をもって引っ張ることができなかったのだ。最後の一押しを上司に頼ったことで、自分の実績として喜ぶことも自信にすることもできず、ただただ悔しさと反省が全身を襲っていた。賞賛も批判も矢面に立つ者が受け止める資格をもつ。数字は良かったものの、マネージャーの仕事としては打ちひしがれる経験になった。柴田はこの痛みを数年経った今も忘れていない。責任を一身に引き受けて決断する彼のマインドは、ここからつくられていったのだ。

そんな個人の転機でありながら、案件にとっては前向きな転機であった。この改善から調子がよくなり、目標達成が見えたのだ。最後の週には、誰が言った訳でもなく自然とメンバー全員が目標以上の数値を目指し、改善を続けていた。柴田は悔しさをエネルギーに、できることをとにかく全力でやっていた。

「遷移率の低下はバナーの追加で対応が良さそう」

「18%いったら、CPAベースで悪化させているとこは停止しようか」

「CVあと10件、見えてくるかもしれません」

「ここは、コスト抑えていくのが良さそうですね」

毎日、データを見続け分析し計算し改善する。最後の最後までメンバー全員が祈る気持ちで一日一日を重ねた。


迎えた広告配信終了日。
目標としていたCPAは大幅に下回る最高の結果に、他の数値も高い基準で着地した。
柴田はようやく肺の奥深くに空気が流れるのを感じる。翌日、谷口がレポートをチームのチャットに送信した。

谷口「昨日で無事終わりました!皆さんお疲れさまでした!レポート添付します!」

林「皆さまお疲れさまでした!」

柴田「皆さんありがとうございました!」

黒須「すごい!!!おつかれさまでした!!記事化進めます!」

相原「お疲れ様!着地して良かった〜〜!」

金「皆さんお疲れさまでした〜!!無事に終わってホッとしたw」

流れるようにねぎらい合うと、メンバーはそれぞれが抱えている案件へとあっさり戻っていく。目の前のできることに最善を尽くしているからこそ、余韻に浸る隙はないのだ。

こうして無事に吉川の期待を越え、プロジェクトは幕を閉じた。結果を公開した記事は、その後に新たな顧客を掴むことに繋がっていき、会社に大きく貢献している。

金が一段と高い壁を越えた物語。柴田がマインドを変えた物語。それでいて、金と柴田の心には同じ余熱が残っていた。二人ともプレッシャーや不安をおぼえながらもプロ意識で跳ね除け、クライアントを勝たせることを一心に全力を注いだ。ベストを尽くそうとするからこそ、信頼できる仲間たちの力を熱心に借りた。メンバーは誰一人欠けることなく、同じ熱量を同じベクトルでもっていた。チームワークが最大の成功要因だったのだ。

この物語は、単なる“社運を賭けて成功した”会社の物語ではなく、個人の物語であり、チームの物語として残り続けていったのだった。

Writer:平賀はつこ

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